リン系化合物は、多くの化学製品からなるいくつかのグループを形成しており、さまざまな最終用途に使用されています。含まれるすべての化学製品が、リン原子を含んでいます。有機系のリン化合物の場合は、酸素と、場合によっては硫黄と結合したリン原子を含んでおり、直接、または酸素を介してリンに結合される「有機」グループとしては、脂肪族、芳香族および複素環式化合物の一部があげられます。
このような化合物の部類には、リン系難燃剤、例えばリン酸エステル系難燃剤や赤リン系難燃剤のように毒性が低いものだけでなく、ダイアジノン、クロルピリホスおよびパラチオンのような有機リン系農薬(殺虫剤)といった毒性の高いものも含まれます。これらの有機リン酸系殺虫剤は、目的とする昆虫に急速に吸収され、高い毒性を発揮するように作られています。残念ながらこれらの殺虫剤は、鳥類、魚類および哺乳類など他の種にとっても有害性を示します。この多様性が原因となって、個々のリン系化合物の毒性について、混乱や誤解が生じたり、殺虫剤とその他の化合物が混同される場合があります。
有機リン系農薬と比較して、リン系難燃剤は毒性が低く、なおかつ重要な火災安全性に関わる用途に使用されています。これらの難燃剤には、リン酸エステル系難燃剤としては、トリ(ブチル化フェニル)ホスフェート(BuTPP)およびトリ(イソプロピル化フェニル)ホスフェート(PrTPP)とともに、トリクレジルホスフェート(TCP)、トリフェニルホスフェート(TPP)、トリキシレニルホスフェート(TXP)などの芳香族有機リン酸エステルが含まれ、無機リン系難燃剤としては赤リンがあります。これらの製品は、カーペット、家具、家電製品やその他の家庭用品および業務用品の燃焼性を抑えるために使用されています。可燃性の物質にこれらの化合物を加えることによって、火災から生命を守って傷害の発生を防ぎ、経済的な損失が軽減されます。芳香族有機リン酸エステル、TXP、BuTPPおよびPrTPPは、油圧制御システムにも広く使用されています。(リン系難燃剤の種類、用途等の詳細については、別途日本難燃剤協会ホームページ掲載の一覧表を参照してください。)
毒性の高い有機リン系殺虫剤とその他のリン系難燃剤における毒性の大きな差を把握する簡単な方法のひとつとして、その化合物が含まれる製品それぞれの「50%致死量(LD50)」値の検査があります。これは、物質の相対的な毒性を測定および比較するための試験として国際的に認められています。マウスに対する急性経口LD50試験は、物質の1回の投与量を変え、動物の50パーセントが死に至る投与量を特定します。以下の表では、多数のリン系化合物および何種類かの一般的な非リン系化合物について、急性経口LD50値を比較している。数値の単位は、体重1kgあたりの物質の投与量であり、数値が大きいほど急性毒性は低くなります。 |
リン化合物
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LD50
(ラット、経口
:mg/kg)
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対象物質
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データ引用
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トリ(2-エチルヘキシル)
ホスフェート |
37,000
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RTECS #MP077000
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赤リン |
>20,000
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燐化学工業 MSDS,2004
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t-ブチルジフェニル
ホスフェート |
15,800
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Stauffer Chemical
Test, 1979
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トリキシレニルホスフェート |
>5,000
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Akzo Nobel
MSDS,March, 1995
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トリブトキシエチル
ホスフェート |
>5,000
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Hazelton Labs LD50 Test
June, 1969
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3,800
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食塩
(塩化ナトリウム)
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J.T.Baker MSDS,April,
1982
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トリブチルホスフェート |
3,000
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Akzo Nobel MSDS,June,
1995
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トリフェニルホスフェート |
>2,000
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Akzo Nobel MSDS
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13,000
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アスピリン
(アセチルサリチル酸)
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Merck Index 10th
Edition
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636
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イブプロフェン
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Fisher Scientific MSDS,
2000
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550
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フェノバルビタール
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CRC Handbook of
Toxicology
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200
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フッ化ナトリウム
(歯磨き添加物)
|
CRC Handbook of
Toxicology
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181
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カフェイン
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Mallinc krodt MSDS,
1986
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クロルピリフォス
(殺虫剤) |
82
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Chem Services Inc. MSDS,
1994
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ジアジノン(殺虫剤) |
66
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The Pesticide Book, 4th
Edition, 1994
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パラチオン(殺虫剤) |
2
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The Pesticide Book, 4th
Edition, 1994
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0.1
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テトロドトキシン
(フグ毒)
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Casarett & Doull's
Toxicology,5th Edit.
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リン酸エステル系難燃剤の中には、一過性および完全に可逆的な弱いコリンエステラーゼ阻害を引き起こす可能性を持つものがあることがわかっています。それに対し、有機リン系殺虫剤はこの酵素の効果を強く抑制するように設計されており、このため急性毒性が高く健康に対する悪影響があります。これは、この概要で扱うリン系難燃剤と、有機リン系殺虫剤との重要な差異を示すひとつの要素です。
表には、さまざまなリン系化合物の毒性の程度が、グループによって大きく異なることが示されています。難燃剤、工業油または可塑剤として使用されるリン酸エステル類は急性毒性が低く、これらの製品の急性経口毒性は、食塩やアスピリンなどのように日々の家庭での生活で使用される製品よりも低い場合があります。トリオクチルホスフェート(トリ(2-エチルヘキシル)ホスフェート:EHDP)およびトリブトキシエチルホスフェート(TBEP)という2つのリン酸エステル類は、合衆国FDAによって、食品と直接接触しない用途への使用が認められています。
下記の図は、各種リン系化合物の毒性を、2種類の一般的な食品添加物およびより毒性の高い有機リン系殺虫剤と比較することによって、簡潔に示したものです。 |
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本説明文は、Pefrc(Phosphate Ester Flame Retardants Consortium)発行のPefrc Statement Organophosphorus Toxicology, 12-Jul-2004をベースに、現時点で入手できる資料、情報、データに基づいて日本難燃剤協会リン部会が作成しております。 |
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