リン系難燃剤の安全性が議論される場合、赤リン系も含めて議論される。しかし、赤リンはP4の重合物であり、他の有機化合物が含有されない物質である。従ってリン酸エステル系難燃剤とは分けて考える必要がある。 |
(1)赤リン系難燃剤の毒性 |
赤リン系難燃剤は、無毒であり、発ガン性に関する報告もない。
赤リン系難燃剤の主成分(85%以上)は赤リンであり、赤リンの毒性は、急性経口毒性LD50(マウット)20,000mg/Kg以上1)であり、表12)から無毒である。
また、OSHA(米国連邦労働安全衛生局)、NTP(発ガン物質についてのレポート)、IARC(国際ガン研究機関)への発ガン性に関する報告もない。
赤リン系難燃剤のほかの構成物は、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、フェノール樹脂等であり、これらについても毒性は低く、また量的にも少ない事から赤リンの毒性データに影響はないと考える。 |
表-1 急性毒性の級別 |
水酸化アルミニウム |
:TDLo 79,000mg/kg(child) |
水酸化マグネシウム |
:LD50 8,500mg/kg(rat) |
フェノール樹脂 |
:LD50 5,000mg/kg(rat) |
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(2)取扱い上の安全性 |
赤リンは、消防法上第2種の危険物として取扱う必要がある。しかし、マスターバッチ化する事により非危険物とする事も可能である。
赤リン系難燃剤は、赤リンに無機被覆及び樹脂被覆する事により、赤リンと比較して自然発火温度、粉爆発性、打撃発火性において取扱い上の安全性が一段と向上する。
更に、金属水酸化物との混合、樹脂粉との混合、液状樹脂との混合、または樹脂と混合しペレット化する事により、危険物第2類から外れ、消防法上の非危険物とする事も可能である
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(3)環境に対する安全性 |
1.作業環境 |
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赤リン系難燃剤は、高温・多湿雰囲気では、微量のホスフィンガスが発生する。しかし、局所排気を設置すれば、作業環境ではホスフィンガスは殆ど検知されなくなり許容濃度以下となる。
市販の赤リン系難燃剤は、赤リンに無機被覆及び樹脂被覆する事により、加熱時(押出加工時)のホスフィンガス発生量を抑制しているが加熱よる微量のホスフィンガスの発生は避けられない。
しかし、局所排気の設置により、赤リン系難燃剤樹脂組成物製造の作業環境におけるホスフィンガス濃度は許容濃度以下となる。
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2.難燃化製品の使用環境への影響 |
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閉鎖環境下で赤リン系難燃剤含有樹脂組成物が使用されても、下記の概算からホスフィンガスの人体ヘの影響は、ほぼないものと考える。
室温50℃の室内(6畳)で、赤リン系難燃剤を含んだPA樹脂組成物が10Kg存在したと仮定すると室内のホスフィンガス濃度は0.0007ppmとなり、許容濃度の1/400となる。
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3.火災時の有毒ガス |
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赤リン系難燃剤含有樹脂を燃焼させると極微量のホスフィンガスが発生する。しかし、燃焼時に発生する他の有毒ガスと比較して影響を及ぼさない量である事が報告3)されている。
赤リン系難燃剤を含有した樹脂組成物を燃焼(コーンカロリーメーター、水平管状炉)させた時のホスフィンガスの毒性はコーンカロリーメーターの様な比較的空気が流入し易い条件下の燃焼でも水平管状炉の様な流入し難い条件下の燃焼においても、ホスフィンガスの毒性はCOガスの毒性と比較して著しく少なく、ホスフィンガスによる毒性を考慮する必要が低いと考える。
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4.廃棄による環境への影響 |
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赤リン系難燃剤を含有した樹脂組成物を廃棄(埋立て)した場合、自然環境には殆ど影響を与えないと考える。赤リンは、水分と酸素(空気)の存在下で微量のホスフィンガスとリンのオキソ酸(各種リン酸)を発生する。
自然界に廃棄(埋立て)された場合の環境への影響を実験データから概算すると次の様に微量生成する。しかし、溶出リン酸分は土中の微生物の栄養原となり、環境汚染を起さないと考える。
また、大気中に、ホスフィンガスが微量放出されるが、徐々に酸化されて、安全性の高いリンの酸化物になる。赤リン系難燃剤配合樹脂組成物を廃棄しても環境への影響は極めて少ないと考える。
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例-1 溶出リン酸分 |
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ポリアミド(95)/赤リン系難燃剤(5)の樹脂組成物を80℃温水中に49日間浸漬した場合のラボデータを基に、周囲2Km,深さ5mの池の近くに10t廃棄し、溶出したリン酸が全量池に流入したと仮定した場合、池のリン濃度は0.01ppm上昇する事になる。実際には、リンは微生物の栄養原となり、体内に摂取されたり土中のAl,Mgと不溶性の塩を作り殆ど流出しないと考えられる。 |
例-2 放出ホスフィンガス |
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ポリアミド(100)/水酸化マグネシウム(50)/赤リン系難燃剤(5)の樹脂組成物の50℃、3時間に発生するホスフィンガス発生量のラボデータを基に、100m X100mの範囲に10t廃棄したと仮定した場合、1mの高さの空間のホスフィンガス濃度は、0.003ppmと試算され、極めて低濃度(許容濃度:0.3ppm)となり、人体に影響の無い程度の濃度と考える。
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(4)追記 |
赤リン系難燃剤自体は無毒であるが、高温多湿雰囲気では、有毒なホスフィンガスが微量発生する。また、高温多湿下で使用された場合、微量のリン酸が生成する。赤リン系難燃剤メーカーでは、ホスフィンガス、溶出リン酸の抑制を主眼に研究を重ねてきており、ホスフィンガス、溶出リン酸は格段に減少して来ている。しかし、使用に際しては製品の評価を充分に行なう必要がある。また、発火の危険性もあるが、適切な使用状況、用途で使用される事により安全に使用できる。
詳細は、各メーカー作成のMSDS,取扱い説明書に記載されており、これらに従って使用頂ければ、安全と考えている。
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参考文献
1)「合成樹脂」Vol.38、No.7、123(1991)
2)半導体ガス安全化総覧(サイエンスホーラム社出版)
3)消防研究所報告 第80号、第81号(1996) |